猫は人の道具を奪う。奪って自分のものにする。だが、飽きればすぐに返してくれる。だから奪われたのではなく借用されたと解釈すべきなのではあるが、どういうわけか、奪われた、取られた、ひどい、返せ、と文句を言いたくなってしまう。もちろん本心からではなく、頬を緩ませ眉を下げ目を弛ませながらではあるが。今日も例によって花子に枕を奪われたまま眠っていた。寝入りっぱなに愛用している竹製の硬枕ではなく、西友で痔対策のために八百円くらいで買ってみたもののしっくりこなかったので枕代わりに使ってみたら窪みにピタリと後頭部がはまって適度に首も支えてくれるのですっかり気に入ってしまった低反発素材でできた円座クッションのほうだ。あの窪みは、人間の後頭部のみならず猫の腹のあたりもピタリとハマるらしい。「これはわたしのもの」としたくなるのも無理はない。六時十分起床。
敬老の日だが仕事。父は両親とも幼少時に亡くしており、母は父親をぼくが幼稚園くらいだったかもっと前か、に亡くしていて母親しかいない、つまりぼくには母方の祖母しかおらず、めったに顔を合わせなかったので、敬老の日に何かしたという記憶はない。おじいちゃんという存在はまったく未知で、おばあちゃんのほうも、よくわからない。そもそも、とつづけていいかどうかよくわからないのだが、祖母が住む地域の方言というか慣習というか、なのだろうか、祖母は孫たちから「オバチャン」と呼ばれていた。なぜだろう。さっぱりわからない。中上健次描く「路地」では、老人たちは、例えば「オリュウノオバ」など、オバだのオジだのを名前の後ろにつけて呼ばれていたが、それとは感覚がどうも違う。違和感を感じつづけていたが、いつごろからだろうか、祖母はばーちゃんと呼ばれるようになっていた。なぜ呼び方が変わったのかもわからない。呼び方がブレまくりだ。もっとも、我がオヤジだけはブレていない。父は祖母のことを、ぼくが小さいころから今に至るまで、ずっと「ババア」あるいは「クソババア」と呼びつづけている。そんな祖父は2011年3月11日、大震災の起こる日の早朝に亡くなった。祖母はあの惨劇を知らずにあの世に行った。ぼくら身内は余震に怯えながら祖母を見送った。
十六時、仕事終了。新聞のキリヌキを整理していたら陽が暮れた。おやつにフレンチトーストを食べた。
夕食は鮭の塩麹漬けを焼いて食べた。塩麹は獣肉より魚肉のほうがあうような気がする
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