わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

津島佑子「ヤマネコ・ドーム」読了

 孤児たちは大人になる。何人かは社会的に成功し、何人かは死に、そして誰もが、迷い、深い悲しみを引き摺りながら生きている。ラストでついに、彼らはやさしさを身につけることで、ようやく悲しみから脱出することができた。しかし、彼らにやさしさを与えてくれたのは震災と放射能汚染であり、彼らは逃げるという行為のために、悲しさを精算しようとした。
 第二次大戦後占領時の混血孤児たちの人生、発達障害の男の子の人生と衝動的な犯罪事件、これらを軸にしつつ、東北大震災および福島第一原発事故に至る数十年の時の流れのなかで、人の成長とコミュニケーションの変化を複雑に描写しながら、現代における「救い」の道筋を鮮やかに描ききることに成功した奇跡的な傑作。予想通りのラストではあるのだが、それでも彼らが実践した「救い」は(その対象はター坊の母やター坊だけでなく、実は彼ら自身だったりもする)読者の涙を強く誘い、読者の意識の変化を痛切に求める。年初から素晴らしい作品を読了することができて、本当にうれしい。

群像 2013年 01月号 [雑誌]

群像 2013年 01月号 [雑誌]

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