講談社文芸文庫編『第三の新人名作選』より。終戦後、はじめて迎える春。中国から復員したての主人公は故郷・広島に戻る。原爆の被害で悲惨な状況ではあったが父母が生きていたことを知り、彼は実家に身を寄せるものの、生活を建て直すために東京に戻ることを決める。その前日、彼は原爆の熱でやけどを負い、目も若干不自由な母を連れ出し、花見に出かける。瓦礫の中、ところどころで桜が見事に花を咲かせている。親子は幸せに包まれるが、周囲には花見を楽しむ者はまったくいない…。
地味な内容なのだが、広島の町の破壊されたあとの空疎感、そして静かに放射能被害におびえながらも「ここで生きるしかない」と、できるだけ何も考えぬようにして生きる父母の様子は、東北大震災・原発事故の被災地と重なる。作中で描かれている空疎な中にある幸福感を、3.11後という時代からどう捉えるべきか。この作品の重要性が、時代を超えて急に高まっているような。
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