段落という概念をぶちこわしながら迷走するテキストのなかで、逃走をつづける山下清の純朴な嘘と雑草のような生命力は鮮やかに際立っていき、同時に語り手である男の逃走先でのうだつのあがらぬ生き様というか暮らしぶりというか、その姿はどんどん凡庸で鮮やかさを失っていく。山下清の生き方はいい加減だが必然性に満ち、語り手の生き方は不条理であるがゆえにいい加減さが増していく。おもしろい対比。
- 作者: 磯崎憲一郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: 単行本
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