わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

金井美恵子『お勝手太平記』読了

 とにかく好き勝手に自分と同世代(実際はちょい上?)の勝手気ままな会話を手紙体で書きたかっただけなのかな、と思いつつ、『文章教室』『快適生活研究家』という二つの作品の世界をつなげた上で、豊富な話題と、書き手のアキコさんの手紙だけを書くことで彼女たちの交流の全体像を見事に描き出して見せる技巧の高さに感服しつつ、クソババァ、クソババァ、と毒づきながら読んだのだが、「あとがきにかえて」を読んで、この作品を突き動かしていたのが名作『小春日和(インディアン・サマー)』で、重要な登場人物である小説家のおばさんが作中で書いたエッセイ「手紙へ」がこの作品の出発点であることを知り、なるほど、と納得。同時に、愛すべき『小春日和』への回帰、そしてその世界もまた現実世界と並行して年月を重ねつづけ、作中人物たちも年齢を重ねていたことが、非常に喜ばしく思えた。
 前作『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』も素晴らしいクオリティだったが、ただひたすらに過去の幸せな日々や妙に心に残る情景を掘り下げつつ最後に現在に集約させていたのに対し、本作は現在を、不平不満とささやかな幸せを織り交ぜながら、少しずつ過去の記憶を手紙によって整理し現在の新たな幸せに変換しようとするクソババァたちの楽しげな行き方の全体像を、物語性を排除する形で鮮やかに展開している。前作も好きだったが、本作も非常に気に入った。今年読んだ小説でベスト1かもしれない。




お勝手太平記

お勝手太平記

 

 

小春日和(インディアン・サマー) (河出文庫―文芸コレクション)
 

  

 

 

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

 

 

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