「机の四隅」。「机の四隅」という表現のある古い句の引用と解釈、そして私小説的なつぶやきとを、境界線はあいまいなまま、幾度も往復しながら、少しずつ作品世界が深まり、そしてずれていく。気付けば戦時中の記憶なのか、それとも創作なのか、よくわからない場面へとなだれ込み、最後にはまた「机の四隅」に戻ってくるが、最初と同じ地点ではなく、もっと書き手に寄っている形で終わる。この連作短篇の中ではもっとも視野が狭く、めまぐるしく移り変わる、近視のような感覚の作品。遠くに投げた何かをひたすらそばまで引き寄せていく、そんな感じの作品集だった。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: 単行本
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