「調理場芝居」。幼い頃の記憶と現在、二つの時間が混在し、混濁していくなかで、主人公は記憶の世界も現在の世界も、丹念に描かれたすべての記憶や経験を揺るがし否定するような出来事を思い出す。その瞬間、作品は全否定され、振り出しに戻る…。
時間は一方向に向かって進むが、記憶は断片の集合体が断片同士影響しあい支え合いあるいは否定したり隠したりしあいながら形成されていく。その曖昧さ、不確定性こそが、この作品の原動力だ。
今まで、金井さんの最高傑作は『柔らかい土をふんで、』だと思っていたけれど、この短篇もスゴイと思った。
砂の粒/孤独な場所で 金井美恵子自選短篇集 (講談社文芸文庫)
- 作者: 金井美恵子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/10/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (5件) を見る