わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉「ゆらぐ玉の緒」

「新潮」2016年6月号掲載。

 立春を過ぎた頃、仕事を終えたものの眠れず夜風に当たりに外へ出た、古井さん自身がモデルと見られる語り手の小説家は、明かりの灯った居酒屋で知り合いの老人と出会い、盃を交わす。老人は他愛もない夢ばかり見るようになったと語る。語り手が、女が出てくればまた違ってくるだろう、と言うと、「女の夢など見てたまるか」などと粋がっていたが、しばらくすると、夢のなかでの女との関係についてを語りはじめる——。まったく知らない女とのやりとりは、遠い昔の記憶というよりはパラレルワールドじみていて、読んでいると、死んだ瞬間にそちらの世界と記憶が混濁してしまうのではないか、といった妙な空想についとらわれてしまう。

 そして後半は、心敬の「玉の緒も千尋にゆらぐ春日かな」という発句から、別の話がはじまる。赤江珠緒さんの「たまお」も、この句とおなじく、魂を結ぶ緒、という意味でつけられたのかな。

 

 

新潮 2016年 06 月号 [雑誌]

新潮 2016年 06 月号 [雑誌]

 

 

 

 

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