「群像」2019年1月号掲載。短篇創作特集「文学にできることを」の1篇として掲載されている。短篇とはいえ、この年齢でまだ創作意欲があり、しっかりした読み応えのある小説を書かれていることがすばらしいと思う。
内容はご本人の若き日の過ちについての私小説なのだが、おなじく九十歳を越えた男性の知人からの手紙という体裁で、作者らしき女性の自由すぎる(がゆえに苦しい)生き方と、そこに絡んでいく男性の知人の人生との複雑に絡み合う様子が、鮮明に描かれている。気づいたら作品世界にぐいぐいと引き込まれる断片的にしか描かれていないはずのエピソードたちがどんどん連なって線になりはじめ、気づけば一気に過去の思い出の世界から現在に、引きもどされている。九十代の書く文章じゃないよな。