今朝の朝日新聞に、松浦寿輝による古井由吉の追悼文が載っていた。ここ数年の古井さんの作品を、松浦さんは「反小説」とおっしゃっていた。まさに本質を突いている。物語からも私小説からも距離を置き、しずかに老いや死のフィルターを通じて自分自身と世界を見つめ、言語化していく。これは小説ではない。ほかのあらゆる文学形式を拒絶しつつ、受け入れる。そんな矛盾した感覚に、魅了されっぱなしでした。おそらくあの境地は、その数年前まで続いていた、棺桶に片脚を突っ込んだような緊迫感のある一連の作品群があったから到達できたのだと思う。本当にご冥福をお祈りします。