「群像」2020年5月号掲載。
ゴッホの家計簿らしきものが本物かどうかを調べて欲しい、という依頼の資料に付けられた長い送り状の話は少しずつ断片化し、母親が拾って助けた犬のゴッホ、そしてこの調査に関わる、フランス語の翻訳者(?)の語り手と血縁関係にもあるらしいさまざまな登場人物との交流の話に、物語は少しずつシフトしていく。だが、相変わらず柱は老学者が送り状に口述筆記で書いたゴッホにまつわるエピソードだ。地味な話だがミステリー的な要素があり、ストーリーに躍動感のようなものも感じる。今回の掲載分のラストにあった、老学者の送り状にあったコメントがおもしろかったので引用。
ジャコメッティは僕の好きな芸術家だが、彼は「自己の内部への旅行を伴わない旅行は何にもならない」と云っている。至言だね