「群像」2020年10月号掲載。
占有という概念が所有へと変化するプロセスにおいて、そこに「黙契」という概念が生まれている、と著者(というか今回の鍵となる『人間本性論』を書いたヒューム)は述べているのだが、「黙契」が誕生する原因となっているのが、誇り⇔卑下、愛⇔憎しみ、といった「間接情念」と主張しているのがおもしろい。占有する者=他者に対する感情が、お互いの「関係」を生み出す。そしてその関係に秩序をもたらすためには「制度」が必要となる(…って考え方でいいのかな?)。関係とは、悲しいかな、お互いの「価値」を比較すること。そして明確に地位や力が離れているのではなく、微妙な優劣関係にある者同士ほど、その価値比較は厳しくなり、それが自己批判やその裏返しとしての他者批判、他者への攻撃へとつながっていく。自己価値が低ければ、その反動として「所有」へと駆られていく…。
おもしろい考え方だが、十分に納得できる。そして著者は、この「比較」によって、さらにやっかいな問題が浮上すると述べている。次号はこれについて考察されることになるのか。