日本を代表する作家のひとりと言っても過言ではない実力派による小説論。緩い、そして大きな出来事は何も起こらず、ただダラダラと時がすぎてゆく感じの作品ばかりを書く保坂だが、小説論は鋭く、明確で、力強い。以下、まえがきから。
(前略)書く技術だけでなく小説という表現形態や人間に対するイメージや思考の積み重ねがなければ小説は書けない。(中略)そういう時間を積み重ねていくと、小説というものがテーマとか意味という限定された読まれ方をするものでなく、もっとずっと動的で多層的なものだということが感じられてくるだろう。テーマや意味は“名詞的”な固定したものだが、小説はそんなものをこえた終わることのない動詞の集積なのだ。
感服。ぼくは小説家ではないけれど、言葉を生業とするものとして、このまえがきは重く受け止めた。どんな形でもいい、言葉を使う人はこの引用文の「小説」という単語を自分の仕事やら興味領域に置き換えて考えてみてほしい。