わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・哲学・思想の読書日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

堀江敏幸『河岸忘日抄』読了

 人生とは平凡な日々の連続である。平凡を平凡として受け取り、そこに生じていた偏りはそのままにすることで、時間の経過による是正を待つ。あるいは、平凡から生まれる新たな展開を待つ。現代という時代は、そんな生きかたこそがふさわしいのではないか、流行の「スローライフ」などというスタイルは(好きな言葉ではないが)、まさにそんなものではないか。そう思わせる作品。そこには運命論や人生のもつ物語性は一切ない。ないことを書くことによって、文学として成立させる。ひょっとしたらこのスタイルは保坂和志あたりと共通するのかもしれない。保坂はもっと地に足のついた表現をしているが…。
 この作品、中上とは正反対の性格をもっている。登場人物たちの生まれ持った運命、それに翻弄されることで展開する、不可避的な死をめぐる物語、死をあでやかに飾るかのように蠢く性、死と生/性の連続によって生まれる歴史の断片。中上は荒れ狂う生命の力、そこに重なる運命の爆発を重厚かつ緊張感あふれる語りで描いた。うーん、どちらが好きかといえば、やっぱり中上なんだよなあ。