わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

受賞/変身

 七時起床。ようやく晴れた。雲が多いとは言え、そのわずかなすき間には、確かに青い空が広がっている。雲に断片的に遮られた陽射しは緩やかであるが、雨つづきでグレイスカイに慣れた目には少々まぶしい。わが愛鳥、インコのぷちぷちも久々のお天道様を喜んでいるようだ。早朝からギャースカとハイテンションにわめきちらしている。
 健康食品メーカーのイベント企画など。夕方、某筆記具メーカーの打ち合わせのために麻布十番のO社へ。デザイナーのVさんから、先日いっしょに作成した某ブランドの広告が、某広告賞の大賞に選ばれたことを知らされた。うれしい。が、受賞できて当然な気がしないでもない。それくらい注力した。
 帰り道、四ツ谷駅の構内で開かれていた古本市を覗いたら、ねじめ正一の『万引き変愛記』という作品が気になって仕方なくなり、衝動的に買ってしまった。
 帰宅後、「TVチャンピオン」のダイエット選手権を見ながら夕食。よく女性誌のうしろのほうにある、「こんなにやせました」広告がぼくは好きだ。別に掲載されているモデルの努力を認めたとか共感したとか、そんなことではない。単純に、変わりっぷりがおもしろいのだ。子どもの頃は仮面ライダーやバロム1、イナズマン人造人間キカイダーといった変身ヒーローに憧れた。ようするに、変身が好きなのだ。
 
 武田泰淳ひかりごけ』より、「流人島にて」を読みはじめる。よく日記に書いていることだが、泰淳先生の『目まいのする散歩』は、もっとも好きな文学作品のひとつ。『ひかりごけ』は、以前この「流人島にて」を途中まで読んだが、いつも就寝前に読んでいたので気付いたら眠っており、結局眠る寸前に読んだところがさっぱりアタマに入っておらず、読み進めても全然把握できなくなってしまって途中で読むのをやめた作品。描写がすごいのだけど、展開が追えなくなってしまうのだ。こうなったら、しばらく時間を置いてから読み直すのが一番だと思う。で、描写のスゴさについてであるが、たとえばこんな部分が好きだ。
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 松葉杖を付いた隻脚の男が、倉庫の方へ歩いて行く。なめし革の如く黒光りする上半身は裸だった。片方だけ短い白ズボンと、白い水兵帽には、しみ一つない。不具者らしくない精気にあふれ、たくましい男は傲慢に杖の音を立てた。出張所の前の縁台には、T村の老人が腰かけていた。(中略)左足のない男は老人に近寄り、高笑いした。笑うとき、彼の強靱な腹は、太いバンドをきしませて、はずんだ。彼には淋しさも弱々しさも、微塵もない。彼は、この灼きつけられ、燃え上がる光景にふさわしい。それは少年時代の冒険心で、私をうなずかせる。
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 ハンディキャップがあるといるというのに、異常な生命力を感じさせる島の男。その逞しさを、最後の一文で巧みに語り手の意識に吸収させる。そして、語り手が島の男とは正反対の人物であることまで悟らせてしまう。おもしろいなあ。
 
 

万引き変愛記

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ひかりごけ (新潮文庫)

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