中期の連作短編集。裏表紙には、物語型の小説からの転換期にある小説だ、といったことが書かれていた(みたいだ)。
「無言のうちは」読了。古井自身と思われる男が、病み上がりの身で京都に一人旅に出かけるが、宿で夜中に、熱にうなされたような、しかし熱は出ていないのだが、幻覚を見る。ただそれだけ、物語を「流れ」とすれば、「点」を描いたような作品。だが、その点がなぜか遠近感を持ちはじめ、そして世界が揺るいだり確かな像を結んだり、と騒々しく蠢く。まあ、これは近年の古井さんの作品もおなじなんだけど。なにはともあれ、へんちくりんな書き出しに脱帽。引用。
あれは何と呼んだか、頭巾か帽子か、茶人のかぶる隠居のかぶる、宗匠のかぶる、いやたしかに僧侶らしい、品よく痩せた老人が食堂車の隅の席で、二重回しというのか和服の外套の、寛やかな袖の内から両手を端正に動かして、ナイフとフォークを使っていた。
なんだこれ。こんな文章構造、アリ? うーん、アリなんだよなあ。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/09
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