4章目「稲妻と鏡」。迫村は、食わせ者と易者というふたりのアクの強い老人と、まずい肉野菜炒めをつつきながら「自由」について意見を交わし合う。ちょっと引用。なんだか古典文学みたいだな。ロシア文学とか。
わたしが言いたかったのは、ビールの味でも金魚掬いの水の感触でも、何でもいいけれど、そういうかけがえのない無数の現実に取り囲まれて、そのただなかで人間は生きていて、その外にはどうしたって出られないということ。というか、つまりね、そういう現実から身を振り解こうとして、幻想だの気の持ちようだのに救いを求めるなんてのは、馬鹿馬鹿しさの極みだろうっていう、単にそういうことなんですよ。現実をそのまま受け容れればいいじゃないですか。
読者を巧みに幻想の中に引き込んでおきながら、作品の鍵を握っていそうな登場人物には、こんなセリフをしゃべらせてしまう。うーん、確信犯だな松浦氏は。
- 作者: 松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/07
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