わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

松浦寿輝『半島』

 4章目「稲妻と鏡」。迫村は、食わせ者と易者というふたりのアクの強い老人と、まずい肉野菜炒めをつつきながら「自由」について意見を交わし合う。ちょっと引用。なんだか古典文学みたいだな。ロシア文学とか。

 わたしが言いたかったのは、ビールの味でも金魚掬いの水の感触でも、何でもいいけれど、そういうかけがえのない無数の現実に取り囲まれて、そのただなかで人間は生きていて、その外にはどうしたって出られないということ。というか、つまりね、そういう現実から身を振り解こうとして、幻想だの気の持ちようだのに救いを求めるなんてのは、馬鹿馬鹿しさの極みだろうっていう、単にそういうことなんですよ。現実をそのまま受け容れればいいじゃないですか。

 読者を巧みに幻想の中に引き込んでおきながら、作品の鍵を握っていそうな登場人物には、こんなセリフをしゃべらせてしまう。うーん、確信犯だな松浦氏は。

半島 (文春文庫)

半島 (文春文庫)