春田は、旅人と生前に交流のあった思想団体<知行鍛錬運動>運営者の鶴島直義を訪れる。東京では、人との交流を避けるように創作をつづけていた旅人の人物像が少しずつ浮かび上がってゆく。明らかに厭世観が強いのだが、その言動が自殺に結びついているとは、春田も旅人も考えていない。旅人の振る舞いは単純な厭世や隠遁ではなく文学的な思想や信念に基づいた行動であることはすぐに読み取れる。だが、そうなると、ますます自殺の理由が、そして他殺の可能性が、わからなくなる。事態は一向に進展せず、逆に本作の純文学的な、というよりは純文学にちょっとだけ距離を置いて外側からそれを描くことによってメタ純文学として成り立っているような側面が、どんどん強まっている。
- 作者: 大西巨人
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2000/02
- メディア: 文庫
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