わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

洪水

 かかりつけの歯医者である並川先生、この方立川流門下生で並川抜志という名で落語をしているのだが、彼が長野のアマチュア噺家と両国で落語会を開くのでカミサン、義父母と見に行った。帰りに新宿「ビッグカメラ」で義父のプリンタ購入を付き添い、義父母宅で夕食を摂っていたところ、豪雨となった。
 二十一時、陳腐な表現だが滝のような激しい雨音に、これはすぐにおさまらない、と直感したので雨足など気にせず自宅に向かうが、善福寺川沿いの遊歩道、そのすぐ側を通る市道は、地名の通り荻窪は窪地であるためすでに水が溜まり、十数年ぶりに膝まで上がった水の中を、靴を濡らしズボンを濡らしながら帰宅する。すでにわが家のあるマンション前の道路も水位が上がり、60センチあるエントランスの段差すれすれまで水が溜まっている。着替えてすぐに様子を見に行く。土嚢で水を堰き止めたいところだが、そんなもの常備しているはずがない。段ボールで代用するが、焼け石に水だ…おかしな表現だが。すぐに川は決壊。両わきに通る遊歩道に水が流れ、支流のようになってしまったが、やがて本流支流のさもよくわからなくなった。水は増えつづける。川と歩道をわける柵、高さ1メートル強はあるはずだが、これが数十センチにしか見えない。水道が止まった。マンションの貯水槽のモーターが冠水したからだろう。
 二十三時過ぎ、一階が床上浸水。ドアを開けると外廊下やベランダに溜まった水が一気に家の中に流入してしまうので、窓にある外格子をドライバで外し、そこから這い出てもらった。そこから先は、ただおろおろしながら雨足を伺うばかりである。水は一階から二階への階段、数段分まで上昇している。マンションに住む男たちで、明日どうやって水道その他復旧の手はずを整えるかざっくりと話し合うが、一階の家族の主たちは正直それどころではない。全三階、九戸のうち三戸が浸水、そのうち二軒は四人家族と犬一匹、もう一軒は老人のひとりぐらしだ。犬が二階の外廊下を徘徊している。使っていないバスタオル、二枚ほど寄付した。そうこうしているうちに停電した。懐中電灯を用意するが、使いつづけていたら電池ではなく電球が切れた。ロウソク、ライター、そしてケータイの液晶画面のバックライトでなんとかしのいだ。
 隣のマンションはウチよりもさらに数十センチ低いようだ。角の部屋の小さなベランダに水が溜まって風呂のようになり、設置してあったエアコンの室外機がてっぺんまですっぽりと水に浸かっている。一階の外廊下は運河になっている。水位は胸くらいまであるだろうか。
 わが家も花子、麦次郎とも不安がっている。ぼくがエントランスの様子を見たり、一階家族の脱出を手伝ったりしていると、情緒不安定な花子はすぐに鳴きはじめる。支援が落ち着いたところで部屋に戻り、暗闇の中、ロウソクの明かりのもとで花子をなだめながら雨が去り水が去るのを待った。
 二時三十分、電気がようやく復旧する。水もすっかり引いたようで、エントランスもその前の市道も自由に行き来できる。外にあるウチのマンションの水道は貯水槽とは関係なく設置してあるのできれいな水が出る。ここで水を汲み、何度も往復して風呂に貯め、とりあえずの生活用水にした。
 明日は一階の三戸は大変だろうが、ウチはなんとかなりそうだ。朝一番で飲料水を買い出しに行こうと思う。