わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

再起

 身体はつかれているはずでも目覚めてしまった。六時。花子は、今朝も外の様子がおかしいよ、と教えようとする。そんな鳴き方と表情だ。外からはすでに浸水した一階の方々の声が聞こえはじめた。水をかぶり使い物にならなくなった家財を外へ出し、掃除をはじめているらしい。各戸とも、オトウサンたちは会社を休んで家の片づけに専念することにした、と話している。がんばってくださいね、と励ましの声をかけるが、力にはなれない。いくら近所とは言え、よそのご家庭に入り込んであれこれ運び出すのは向こうも遠慮したいところだろう。自分にできるのは、やはり声をかけることと、マンション全体の設備復旧のためにあれこれ手配したり調整したりするくらいだ。
 七時、飲料水と野菜ジュースを買いに(後述するところとは別の)高台にあるコンビニへ。 
 十時、外出。打ち合わせのため、銀座のT社へ向かう。自宅から荻窪駅までの道、あちこちでマンションやビルの管理会社の人間が、泥の掃き出しで忙しそうに動いている。夕べの水に流された泥がうっすらと堆積している。道路と並行する向きに、しかし激しくうねりながら水が流れたことが土砂から読み取れる。土砂に混じって草木や植木鉢も転がっている。川沿いでは、溺れたのだろうか、鳩の死骸をカラスが食べていた。
 十三時、帰社。雨が降り出したので高架線下が歩ける西荻窪から帰ることにした。ガード下は生協のあたりで一度途切れる。左に折れると、そのまま傾斜のきつい坂が百メートル以上続く。その中間あたりの小さな交差点を右に曲がればわが家なのだが、曲がらずそのまままっすぐ歩いてみた。坂下、三分の二あたりに善福寺川が流れており、そこに架かる橋は昨夜水が橋の上すれすれまで上昇していたところだ。この近辺では、一番冠水浸水がひどかった場所ではないだろうか。道路の左右、路肩には故障して立ち往生したクルマがそのまま放置されている。ごみ捨て場には、すでにマットレスやら蒲団やらクッションやらソファやらカラーボックスやら、泥水をかぶり使い物にならなくなった家財道具、いや元家財道具の粗大ごみがうずたかく積み上げられている。坂はコンビニのあたりでもっとも低くなり、そこから先はまた上り坂になる。つまりコンビニあたりが一番窪地になっているから厄介だ。店員が大きなゴミ袋に商品を入れて、せっせと外へと運び出している。営業再開は当面先だろう。
 十五時ごろ、ようやく水道が復旧。台風が近づき、再度冠水の恐れもあるのでモーターの修理はあえてせず、水道管を直結することにしたらしい。貯水タンクを経由しないから、各戸が同時に大量に水を使うと出が悪くなるらしいが、応急処置としては上々だ。早速風呂に入ったら、気が抜けたのか強烈な睡魔に襲われた。少しだけ仕事をして、ひとまず休むことにする。そういえば、三時間程度しか寝ていない。
 
 野坂『東京小説』。依存型近親相姦。こういうのも野坂の得意分野。
 そういえば、野坂の文体って講談に似てるよなあ。