わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

時間と場所を

 遅くまでの打ち合わせは体力を消耗する。時間のせいだけではないだろう。移動に体力を使うというのも違うような気がする。おそらくは場所だ。環境が違う。それがよい刺激になればよいが、よく仕事をいただけるクライアントの会議室となると、中途半端な慣れが生じる。ところがその場所は、考え、生み出すには案外不向きだ。慣れているとはこころに場所のちからが作用してこないということらしい。逆に、慣れがストレスを生むのかもしれない。考えよ、と言われると、じゃあ考えるための時間と場所をください、といいたくなる。無論、場所は自宅兼職場のMacの前、あるいは自宅の風呂のなかだ。
 朝寝坊。疲れているからだろう。午前中は整骨院で肩こり、腰痛の治療を受ける。午後からはペットフードメーカー企画の最後の追い込みをしつつ、調子悪くなったWindowsノートのリカバリと再インストール作業。今までOfficeはバージョンXPを使っていたが、今日から2003にアップすることにした。
 
 泰淳「海肌の匂い」。女人禁制だった漁船に乗ることになった、漁師新三の妻・市子。海辺の風景に心理を投影した描写が秀逸。例えばこんなところ。
《青く水平にひろがる海と、高く高くその上に無限にひろがる空、緑のA島、それらを一望におさめる、まだかつて見たこともない広大な風景が、明るい外光につつまれてそこに眺められた。水路も海岸沿いの水面も、村で見るよりも、色淡く、おぼろげであった。A島さえが、頂上から三角型に海を下ろした姿が、小さく、簡単に見えた。低く平べったく伸ばされた海面にへばりついて、小さな小さな漁船が、這うように動いていた。そしてその明色の絵を額縁のように、市子の頭上にかぶさった木々の枝が、黒い陰となってふちどっていた。夏の枯葉はその明るい絵をバックにして、黒い影絵となって落ち、草むらから舞いのぼる蝶も色のない黒影だけをヒラヒラさせた。》