わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『辻』読了

「始まり」読了。母親の葬儀を終え、納骨堂に遺骨を収めた男。そして、ただ父親の世話だけに人生の大半を費やし、その父を失った女。病院でも時折顔を合わせていたふたりが、魂を送り出す場所でふたたび出会う。これが「始まり」なのだろうか。
 辻とは魂が彷徨う場所であり、魂を送り出す場所であり、そして残されたものの出発点でもある。ならば、死の悲しみとの決別の場所でもある、と言えるのではないか。本作では、何度も死の物語が繰り返される。だが、そこにセンチメンタルな悲しみはない。登場人物たちは、ただ淡々と死んだ者たちの生き様を振り返る。そこに狂気を見いだしても、いや自分の中に狂気を見いだしても、彼らは静かに運命を受け容れ、消化する。