わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『山躁賦』

「陽に朽ちゆく」読了。主人公は畔道で葬儀に向かう一族の列を目撃する。そのまま寺に向かい、そこで彼は合戦に明け暮れた時代の荒法師、いかめ房こと阿闍梨佑慶と(幻想の中で? その霊と?)出会う。
 寺で見かけた五輪塔を見て、石が朽ちるということを思うシーンの描写がまたスゴイ。たった数行で、一気に時間を飛び越え悠久の域にまで達してしまう。

 石も腐っていくんだな、としばらくして思った。石も育成する、と感動した詩人もあったようだが、これらの塔を造った石工たちはおそらく、石も朽ちるということのほうを熟知していた。初めからその知を込めて塔を形造った。やがては残骸となり、ひとところにまとめられ、捨てられ、土に埋もれる、石も人体も変わらぬことを、すでに見ていた。むしろ朽ちなくてはならない、と。
あたり一面にまばゆい光の中を、石の腐れていくにおいが、炎と揺らめき昇る気がした。