今日から読みはじめた。とりあえず10ページほど読んだが、作品世界の全体像がさっぱりわからん。どうやら手紙を書くことが好きな青年が何かを回想しているらしいのだが、うまく掴めない。これでもか、というくらいチカラの入った情景描写が、これでもか、というくらいつづいてゆく。音楽で言えば、延々フォルテッシモを弾かれているような。金井の作品は、近作はいい感じにチカラが抜けていて読みやすい(それでも、読み手にある程度の「条件」というか「資格」みたいなものを提示してくるのでヒジョーにとっつきにくいのだが。だが、一度のめり込むと抜け出せなくなる。あやしい言葉の毒)。
タイトルは、ビジュアルイメージを想起しやすいのだが(ぼくの場合、岬の遠景みたいなものが浮かんでくる)、よくよく考えるに『岸辺のない海』とは不条理な、ありえない存在。このタイトルに言及している箇所を引用して、内容がよくわからんことをごまかしちゃえ。お茶濁しちゃえ。
とどまることなく、続けざまに亡命しつづけること。それは書くことに他ならない。休みなく、夜と昼のたまりの中で、肉体を包囲する空間と、閉ざされた道の迷路の中で、地図の中の緑色の平野と薔薇色から茶色へと色を変える山地と赤い糸筋のような等高線と水色の河川と、鉄道と道路と地名を記す小さな点の中にわけ入り、地図に書き込むことの出来ない空間へ、生きるために、もしくは、生きる理由なんてものがないことを知るための逃走、そして闘争。ぼくは書きつづけよう。ぼくの灰色の表紙の航海日誌を----。岸辺のない海をめぐる永遠の航海に、永遠の不可能の航海に出かけよう。ぼくは書きつづける。書きつづけるために----。
何よりもまず、休みなく書きつづけること----。
- 作者: 金井美恵子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1976/10/10
- メディア: 文庫
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