途切れることのない苦しみが、蔓草のように伸び、からみつく。苦しみの混乱。描かれる植物はみなニンゲンのように猥雑で、登場する人物はみな枯れ草のようにひからび、肉体的な生命力を失っている。いや、肉体的な苦痛にあえいでいる。では、精神はどうなのだろう。内容に救いがない。
中盤くらいまで読み進めているが(詩は、読むスピードがどうしても落ちる)、ようやく救いのような部分にめぐりあえた。延々と苦しい場面が続いた末に、ようやく見えた光のような。いや、これすら救い(の象徴)ではないのかもしれない。希望、とも読めるが、新たな苦しみの芽生え、とも読める。どうなんだろう。どう読むべきか。わからない。でも、妙に惹かれた。引用。
サンタアナの風が吹いた
砂漠から吹くこの風は
強くて熱くて何もかもを乾しあげて山を燃やし森を燃やす
木を倒し灰をつもらせる
そしてその灰で豊かになった土壌から
木々の隙間に新しい木の芽を萌え出させる
木の芽が萌え出てそだって何千年もかかって
森になる
その間に生き延びた木は
何千年もの思春期も更年期もすぎこして
いまだに毎年何百のタネをふくんだ身を地面に落とす
ぼたぼた落とす
そして芽を出す
……比呂美ねーさんはやっぱり偉大です。
- 作者: 伊藤比呂美
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