わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

小川洋子『ブラフマンの埋葬』読了

 主人公の不注意と油断が原因の事故で、ブラフマン他界。
 本作は、感情を表に出さない人物像を通じて、感情がないようで実は豊かなドウブツとの交流を描くという、ねじくれたことに挑戦しようとした……のだろうか。お涙頂戴的安直感動物語的動物映画とはまったく違った雰囲気。
 墓石を掘るのを仕事にしている男だの、古代の墓地跡だの、と繰り返し登場する死のイメージは、肉感に欠け、ともすると魂の感覚にすら欠け、ただ無機的に、半永久的に残存する「石」として描かれている。だから、どんなにブラフマンという動物を活き活きと描こうと、そこに死の影を読み取らざるを得ない。そもそもタイトルに「埋葬」とあるのだから、いつ死ぬのか、を前提に読んでしまう。物語の悲しさというよりは、読むこと自体の悲しさを提起する小説、と思った。
 泉鏡花文学賞受賞作。読後に知った。