「通夜坂」。友人と、どちらが先に死ぬか、死んだほうに十万払うこと、と約束した男が、先立たれた友の葬式に十万円の香典を包む。
語り手の中で、斎場内に張られた白い幕と、十万円包んだ男が語った思春期の記憶の中に残る、女の部屋のカーテンの記憶が妙な具合に重なり合う。斎場に降った雨と、思春期時代の男に降った雨(雨に濡れ、女に呼ばれて家に上がり込み、濡れた服をズボンまですっかり脱ぎ……)の記憶も重なりあう。そして語り手は、重なる記憶たちを、六年後、葬儀に向かう途中で思い出す。斎場につづく坂道は、六年前に男と登った。そしておそらく、今回はその男の葬儀……。
時間の組立てかたがスゴイと思った。さすが古井さんだなあ。
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