わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『夜明けの家』

「通夜坂」。友人と、どちらが先に死ぬか、死んだほうに十万払うこと、と約束した男が、先立たれた友の葬式に十万円の香典を包む。
 語り手の中で、斎場内に張られた白い幕と、十万円包んだ男が語った思春期の記憶の中に残る、女の部屋のカーテンの記憶が妙な具合に重なり合う。斎場に降った雨と、思春期時代の男に降った雨(雨に濡れ、女に呼ばれて家に上がり込み、濡れた服をズボンまですっかり脱ぎ……)の記憶も重なりあう。そして語り手は、重なる記憶たちを、六年後、葬儀に向かう途中で思い出す。斎場につづく坂道は、六年前に男と登った。そしておそらく、今回はその男の葬儀……。
 時間の組立てかたがスゴイと思った。さすが古井さんだなあ。

夜明けの家 (講談社文芸文庫)

夜明けの家 (講談社文芸文庫)

辻