わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

『古井由吉自撰作品1』より「行隠れ」

 表題作、読了。下の姉の結婚式前日に姿を消す、足に障害のある上の姉。語り手である弟は、下の姉の未来にではなく、上の姉の現在にばかり思いを馳せる…。そして、作品の一行目で死ぬと語られた上の姉は、ラストになってもまだ死んでいない(と表面上は描かれている)。弟の想像の世界のなかで生きる姉にも、死の片鱗は感じられない。しかし、どこかが狂っている。
 今の古井さんと比べたら文体が若く、びっくりするくらいスタンダードな構成なのだが、ラストシーンの異常な戸惑い、その濃度の高い文章には現在の文体と共通するものが読み取れる。

古井由吉の作品はこちら。