わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『詩の小路』

「13 吉き日」。アイスキュロスの悲劇オレステイア三部作の最終部「恵みの女神たち」。太陽神アポロンから未来を見る力をさずかったにも関わらず、アポロンに裏切られ、人に信じられる力を奪われてしまった予言者カサンドラーの、絶望の経緯。そこに著者は運命の定理のようなものを読み取る。ちょっと引用。

 ----私のかわりに、どこぞの疫病神をさいわい人にしてやるがよい。
 (中略)これは予言する側の絶望である。予言される側の絶望はつとに、カサンドラーがはじめに神的なエクスタシスに触れて不吉な予言めいたことを口走り出した場面で、困惑した長老たちがこれを先取りした形で歌っている。

 ----信託から吉事が人間に啓かれたためしはあるだろうか。厄災を通して、複雑多岐な神語りの技は我らに恐怖をもたらして真意を悟らせるのみ。
 
 あるいは、人は最も深く知っている因果こそ、知らないのかもしれない。