「天南星」読了。現代における隣人愛、なのかな。ラストの、「天南星」に関する記述、感傷的な書き方など全然していないのに、文脈を通じて読者は感動してしまう。不思議な魅力があった。本作品集中の最高傑作じゃないかな。
「その一週間」読了。戦中(戦前?)の体験談。めずらしく、時系列に沿って大きく脱線することなく作品は進んでいく。軍隊の規律がはらむあやうさとかは伝わってくるんだけれど、正直言ってこの作品はそれ以上のことはよくわからないなあ。
本作品集を通じて、小島信夫という作家は小説を自己表出の場と考えていないのでは、と思った。作中事実と作中事実、その間の距離感や事実そのものの揺らぎ、記憶のほころび、そんなもののあいだから、突然不思議な感動(という安っぽい言葉を使うのは少々はばかるのだが、何らかの、読者の心を揺さぶる要素)が突然浮かび上がってくる。それが意図的なものなのか、偶発的なものなのかはよくわからない。が、その突然さに読者は惹かれてしまうのかもしれない。
- 作者: 小島信夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/10/11
- メディア: 文庫
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