ベルギーの美術、というとピンとこないのが正直なところだが、ブリューゲル、ルーベンスなどが活躍したフランドル地方は現代のベルギーにあたる、と言われればスゲエと思ってしまう。それよりもなによりも、ブリューゲル、ルーベンス、そしてデルヴォー、マグリットが見られるというのでこの展覧会はとても気になっていた。内容は、予想よりこじんまりとしていて点数的な物足りなさはあったが、それでも十分楽しめた。ルーベンスの作品は今ひとつ感銘を受けなかったが、ブリューゲル(父・子)とマグリットの、異なるヘンチクリンさに大いに感動。
以下、気に入った作品。
- ピーテル・ブリューゲル〔父〕(?)「イカロスの墜落」
ブリューゲル得意の見下ろす構図で伝説が描かれているのだが、イカロスの墜落の様子は広いキャンバスの中では見失うくらい小さく、そしてその周囲が墜落していることにまったく気づいていないように見えるのが気になる。変な絵。
そもそも、本当に父ちゃん(農民ブリューゲル/花ブリューゲル)の絵なのか?という話もあるらしく、それで作者名に(?)がつけられたらしい。
- ピーテル・ブリューゲル〔子〕「婚礼の踊り」
変な躍動感。もったりした中年男女の腰の重さが、喜びの表情をも重くする。「地獄ブリューゲル」と呼ばれる息子だが、牧歌的なものも描いてたのね。
- ピーテル・ブリューゲル〔子〕「鳥罠のある冬景色」
ニンゲンは、自然の手のひらの上で暮らしている。それを痛感させられる一枚。
- ギヨーム・ヴォーゲルス「吹雪」
印象派の影響? 苛酷な冬の表情だけを確実に捉えた作品。
- ジェームズ・アンソール「怒れる仮面」
この作品以外にも六点が展示されていたが、どれもヘン。きまじめなヘンさがある。チグハグで、調子が狂う感じ。でも、引き込まれる。タイトルの付け方もうまい。
- エミール・クラウス「陽光の降り注ぐ小道」
硬調な光が面白いと思った。光の強さを素直に表現した結果なんだと思う。浴びてみたい光。
- エミール・クラウス「太陽と雨のウォータールー橋、3月」
大気に拡がる光は柔らかで曖昧。しかし、それを映すテムズ川の川面の輝き方が、「陽光の降り注ぐ小道」みたいに(いや、かなり違うけど)硬くて、おもしろかった。ずっと眺めていたくなる作品。
- ルネ・マグリット「光の帝国」
いわゆるシュルレアリスムって実はあまり好きじゃないのだけれど(若いころは好きだったのさ)、この絵は好み抜きで素晴らしいと思いました。おかしくないはずのものを、おかしな感じに描く。それだけで日常は非日常にたちまち変身する。ぼくらは、それくらい危うい世界に住んでいるのだ、と気づかされる作品。