「新潮」6月号掲載。『聖家族』を思い出させる前衛的な文体と執拗すぎる観察眼で、吉増さんの映像作品のDVDを紹介している、というか、それをベースに物語なき小説を、無理やり捻り出そうとしているような。その無理やりっぷりが魅力。そして、捻り出すという手法こそが、詩人や小説家の世界に対峙する姿勢、なのかもしれない。ちょびっと引用。
空気には表情がある。その表情をひとことでは言えない。脳をノートブックのように用いる必要がある。草稿に草稿を重ねながら推敲がなされるような。これは小説家としての無意識のありかた、その存在のしかただ。そして、詩人は? 詩人は? 風景には何十もの異なる血が流れている。私はこれを「風景の雑種だ」とみなす。反射的にだ。しかし、そうではないのかもしれない。もしかしたら超現実とも思える事柄の集積の果てに、ありえない現実が--顕現するように、もしかしたら雑種があると考えた時点でなにかが間違っているのかもしれない。
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