わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

浦沢直樹・手塚治虫『PLUTO(8)』

 完結編。破壊されたゲジヒトの記憶チップを埋め込まれることで再生したアトムは、憎しみを受け入れるべき感情として自らに取り込むことで強大な力を得る。その力が、プルートゥの心を変え、さらには地球の危機を救う……。
 ラストの盛り上がりで、アトムはこれまで以上にパワーアップしたというのにおもしろさが欠けていたように思えるのは、やはり本作全体を包み込んでいた(そして浦沢お得意の)静かで深い「悲しみ」が活かされないストーリー展開になってしまったからだろうか。ロボット漫画のストーリーにおいて「憎しみ」という要素を柱とするという意欲的な実験がなされているが、やはり、ちょっと扱いにくいのかな。「憎しみ」が「謎」として描かれていた前半は、ロボットたちのすべての行為に「悲しみ」が深く染みこんでいたが、「憎しみ」が物語の表面に登場しはじめた途端に、作品世界全体が未消化なまま強引に(でもその引っ張る力は弱い……)物語をリードすることになり、それが曖昧な読後感の一因となっている、のかも。
 ロボットの精神というものを、もっと深く描いてほしかったなあ……。