アイヤの家の裏手の山で放火らしい火事が起きる。翌日、アイヤは危険な発破現場に出稼ぎに行く。アイヤの子を腹に宿した女キノは、アイヤが旅立ったことなどしらずに、アイヤが火事に巻き込まれたのではないかと心配して駆け落ち未遂をやらかした房の家に…。
秋幸の物語のパラレルワールド的な作品。大きな運命の流れに誰もが巻き込まれながら生きていく。だがその流れがどこに向かっているのかは、誰もわからない。登場人物たちは時折、無意識のうちにそこから飛びだそうとするが、どうしてもその流れに逆らえない。最後には、ここに戻ってきてしまう。戻った理由は、自覚できない。何かに翻弄されている。せいぜい、そう感じられるだけだ、漠然と…。作品はエネルギッシュで生きる力に満ちているというのに、出口がない。生きるエネルギーの放出先がない。そんな、見えないやるせなさに満ちた傑作。ぼくは好きです。

- 作者: 中上健次,井口時男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/09/10
- メディア: 文庫
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (28件) を見る