昭和を代表する純文学作家(とぼくは思っている)の傑作連作短篇集。実は一度読みはじめていたのだが、途中でストップしていた。止めてしまった理由は思い出せない。ただ、猛烈に好きな世界だったことだけはしっかり覚えている。特に巻頭を飾る「ピラミッドトーク」は、奇妙な魅力に満ちあふれている。というわけで、最初からきちんと読み直すことにした。
「ピラミッドトーク」。ピラミッド型の、頂上を押すと音声で時間をお知らせする時計を引越祝いでいただいた作家の、不規則で、やろうと思っていたことは何もできていなくて、それでいていろんなことに興味を持ってしまっていて、その反面、それらにのめり込むこともなく、また一方で、ちょうど日航機事故が起きたころの設定になっていて、話題には何度かのぼるものの、それが掘り下げられることもなく、むしろそういった国家的大事故に対して無関心のまま過ぎていく日常について加工としているのではないか、と思えなくもない。短編だというのに、作品はひたすら迷走をつづけ、収拾がつく気配はまるでない。その迷走っぷりが、妙に気になる。おそらくこれは、一種の喜劇だ。
日航機事故と、先日の大震災。被害の規模は異なるし、その後の国民の行動も大きく異なっているものの(日航機事故は悲しみを呼び、震災は悲しみだけでなく、希望と絶望と批判と反感、そして反感に対する反感を一斉に呼び起こした)、日本中を震撼させたという点は共通している…。
- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/10
- メディア: 文庫
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