深層的には自己は存在するのだろうが、コミュニケーションの対象や社会的環境によって大きく変化し、異なる人格を表出させる傾向を持つ。この「異なる人格」を「分人」と呼ぶ。分人は自分とは相いれない分人を無意識のうちに排斥しようとする性質を持つ。通常はこの状況が絶妙なバランスで維持されつづけるのだが、このバランスが崩れれば、人は自殺することもある…。逆に、分人という考えを受け入れることができれば、自分らしさとは何なのか、といった問題に悩む必要はなくなり、自己は解放されるのではないか、というのが平野さんの主張であり、この主張に基づいて書かれたのが本作、ということなのだろうけれど、分人うんぬんを抜きにしても、本作はエンタメとして非常によくできていると思う。
分人同士の対立によって発作的に自殺してしまった主人公よりも、心に深い闇をもっていながらも明るく振る舞い、しかし時折体が動かなくなるという精神的な病を抱えているその妻に魅かれた。奥さんを主人公にした作品をぜひ読みたい。平野さん、どーですか?

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