わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

加藤典洋『テクストから遠く離れて』

 今日は「III 『仮面の告白』と「実定性としての作者」」を読み進めた。基本的に小説と一部のマンガ以外の本はここに書かないことにしているのだけれど…。著者は、三島由紀夫は自伝小説である『仮面の告白』を書くことで、戸籍上の本人である「平岡公威」を抹殺した、という論を展開し、そこから「作者の死」の概念を問い直し、さらには「テクスト論」のあり方を痛烈に批判しようとしている。考察はひきつづき水村美苗が、なぜ漱石の絶筆作『明暗』の続編として『續明暗』を書いたのか、という点に移る。そこでの一文がとても気に入ったので引用。

 人は「文士」(批評家・研究者・専門家)として小説は読めるだろうが、小説は書けまい。「文士」として読むのは分析的に作品に対することだが、分析からは陽分析的残滓であるノイズは生まれない。人は分析的には作品を生み出せない。人が小説を書けるのは「人間」(ただの読者・素人・非専門家)としてだけなのである。分析を越えるもの、あるいは分析以上に人を動かすもの、そういうものなしに、小説は書かれない。