わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

富岡多恵子『動物の葬禮|はつむかし』

「野施行」読了。八十年代に書かれた作品らしいのだが、突然作品世界が軽くなる。文体やテーマが、ではない。時代背景が、だ。だからこの作者に固有な、時代を敏感に感じ取り、それを反映させるかたちで家族が蠢き出すような感覚は、この作品にはない。それどころか、家族というものが登場しない。八十年代とは、核家族という形態が破綻を来しはじめたころだ。作者はそれを早々に感じ取り、家族になれなかった男女(あるいは家族になることを拒絶する男女)、家族であることを拒否する親子をこの作品で描いたのかもしれない。