わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

小島信夫『月光|暮坂』

「白昼夢」読了。語り手は平光善久が、彼の妻(前妻)が、彼の子どもを出産したのちに彼の母親、姉などの家族とともに暮らしているときに、出征中の彼に宛てた手紙(を平光が想像で書いたもの、かなあ)を読み上げるのを聴く。そこには、妻がしいたげられた生活をしていること、姉は一家を支えるために結婚しておらず、しかし未婚の母となってしまったこと、しかし出産後姉は他界、その子もあまり育たず亡くなってしまったことなどが綴られている。
 というところで、このやりとりが実は語り手の白昼夢であり、この夢を見ていたときに、彼の妻(後妻)が、先妻の子である長男と関係がうまくいかず、神主夫婦に相談に行っていたということが明かされる。作品全体は、後妻は必ず長男とうまくいく、ということをほのめかして終わる。この一点を強調するために、それまでの内容を曖昧な内容にしてしまったのだろうか。語り手はその心の内をストレートに語ることはない。しかし、前妻が戦中に置かれていた状況と、後妻が現在置かれている状況に共通点を感じているのは確かだ(もっとも、前妻が置かれていた状況が(作中)事実だという確信はまったく持てないのだが)。うーん、過去まで含めた家族関係の恢復を、小島は描きたかったのかなあ。
 とにかく、謎の作品。作意が今ひとつ見えないのだ。だが、感動する。謎だらけだからこそ、感動するのかもしれない。