仕事がヒマなときを見つけては読み、読んでは忘れ、読み返し……の繰り返し。長かった……。
高橋源一郎、大江健三郎、阿部和重などの作品を「テクスト論破り」とし、作者還元主義に陥ることなく、作者と(社会背景などと)作品との関係を展開することで新しい文芸評論のあり方を提示した意欲作。だが、本作の価値はオウム事件以後萎縮傾向にありながらも独自の進化を遂げつづけている日本の文学界に対する脱オウム=脱現実主義提案にあると思う。元来小説とは現実ではないことを書くことで、読者になんらかの感情を与えるものであった。この本質は、現実に即していると言われる私小説でも自然主義でも、書かれた時点で虚構となるという意味においては同様である。ところが、オウム事件以降は、超越的な存在への憧れや、超越的な存在になるための経緯などを描いた作品が日本の文学界から(エンタメを除く)姿を消すことになる。これほどオウム事件は文学にとって大きな事件であった。作家たちは、現実とのみ向き合い、安易なロマン主義からの脱却を図ることで、新たな「超越」の方法、あるいは「超越」に寄らない文学手法の確立を模索する。だが、加藤はロマン主義にある稚拙さや幼稚さ、素朴さこそが文学の本質であり(というのは言い過ぎなのかな?)、理想を語ることこそが人を動かす、だから小説の未来は「超越的なものへの希求」から生まれる、と主張する。いやあ、評論で感動したのは久しぶりでした。
- 作者: 加藤典洋
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/01/17
- メディア: 単行本
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