推理小説的な構造と評論・文芸批評的な手法で、嘱託殺人・承認殺人を、そして痴呆症に陥った文学者・小説家の最晩期の生き様を、その背後から緻密に描いている。セールス的にはまったくふるわなかったようだが、大西さんは本作で取り上げたテーマを自身の文学活動の中でかなり重要視しているようだ。巻末の解説にあった大西さんのエッセイの引用をちょいと紹介。
『迷宮』(の主要な作意の一つ)は、有吉佐和子作『恍惚の人』ないし佐江衆一作『黄楽』のような老人ボケの惨状とか老人介護の労苦とかの俗耳に入りやすい描出ではなく、人生と死の社会的にして存在論的な・今日的にして永遠的な主題の孤軍独行冒険的な追求である。
[『文学上の基本的要請』、『群像』一九九六年五月号]

- 作者: 大西巨人
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2000/02
- メディア: 文庫
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