「マルスの歌」読了。なんじゃこりゃ、という終わり方。召集令状に対する三治のあまりに適当な姿勢。こりゃたしかに当時なら発禁されちゃうんだろうなあ。発禁なんて横暴、許せないことだけどさ。内容は……ちょっとカミュっぽいなと思った。不条理さはこちらのほうが薄く、行動にそれなりの理由というか言い訳というか、があるのだけれど。気になった部分、ちょっと長いが引用。
まったく三治といい、帯子といい、(中略)このわたし自身といい、おかしいと思い出すと際限なくおかしく見えて来た。しかも、たれひとりとくにこれといって風変わりな、怪奇な、不可思議な真似をしているわけでもないのに、平凡でしかないめいめいの姿が異様に映し出されるということはさらに異様であった。『マルスの歌』の季節に置かれては、ひとびとの影はその在るべき位置からずれてうごくのであろうか。この幻灯では、光線がぼやけ、曇り、濁り、それが場面をゆがめてしまう。ひとびとを清澄にし、明確にし、強烈にし、美しくさせるために、今何が欠けているのか。(中略)何か非常に判然としたものの前でわたしは惑い、焦れ、平静をうしなっているようであったが、やがてその何かが遅く来て、しみじみと、根強く、隙間なくわたしのうちに満ちひろがったとき、そんなにも判りすぎているもののまわりに足踏みしなければならなかった自分が迂闊に鈍物に美恵、わたしはたいへん恥かしく、ひとりでに顔が赤くなった。思想、ああ、思想……はげしくのどが乾いて来た。現実のわたしののどのほかに、どこかでのどが大きく乾いているような気がした。
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