わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

福井晴敏『機動戦士ガンダムユニコーン』(6)重力の井戸の底で

 暇を見て、ちょこちょこと小刻みに読んでいるのだが、今日はある程度まとめて読めた。大気圏突入後、砂漠に不時着したネオ・ジオン「袖付き」の偽装輸送船《ガランシェール》のキャプテンであるジンネマンは、突入中に回収(というより救助だな)した《ユニコーン》のパイロットであるバナージとともに、60km先にある街まで助けをもとめに歩くことに。
 バナージは、《ユニコーン》に乗り込み《ラプラスの箱》という利権がらみの謎にまつわる闘争に引っ張り込まれてしまった自身の運命を呪う。だが、砂漠という過酷で無慈悲な環境の中を歩きつづけることで、バナージは運命とは何かを真剣に考え、何かを掴みかける--。長いが、引用。

 誰もが理不尽と向き合っている。意のままに生きるには、世界はあまりにも残酷で、人間はあまりにも無力だ。現に自分は、いま生死の境にいる。あとどれだけ歩けるか、わかったものではない。文明の皮を剥ぎ取られた生身はかくも脆い。こんな過酷な自然の中から人類が生まれたこと自体が間違いであり、大いなる理不尽であるのかもしれない。
 が、それでも人は生きてきた。過酷な自然と闘い、水を飲み、他の命を食らって。(中略)もうなにもしたくないと言いながら、自分もこうして歩いている。立ち止まることだってできるはずなのに、自分でも判然としない衝動に押されて闇雲に歩き続けている。
 立ち止まることは、すなわち理不尽に対する敗北だと本能が知っているから。立ち止まり、世を呪い始めたときから、その者の世界は閉塞する。この脆弱な肉体で自然を切り拓き、生き抜き、ついには宇宙にまで飛び出した。その闇雲な衝動は、世界の理不尽さに衝き動かされてのことだ。疫病、飢餓、差別、戦争……この世にある以上、あらゆる命は理不尽との闘いを宿命づけらえており、その闘いの歴史こそが人類の歴史なのだろう。
 だから進む。歩く。自分が納得できるまで、ひたすら歩く。すべての理不尽から解放される世界を目指して。そんな場所はどこにもないと知っているのに、この自然を破壊してでもがむしゃらに歩く。歩いているうちは負けない、と叫ぶ本能に従って。

  なぜ闘うのか。思い返すに宇宙世紀モノのガンダムシリーズは少年が理不尽な戦闘に巻き込まれながら成長する、というのがひとつのパターンとして存在していると思うが、その「理不尽さ」とは何なのか、この問題に対する回答を明確にしていないような気がしていた(認識不足かもしれんが)。しかし本作のこのクダリで、それが一気に解消されてしまった。これは戦争を題材にした作品を数多く手掛けている福井さんなりの、ガンダムの歴史の新解釈なのだろう。もちろん、同時に「現実」の歴史の解釈でもあるのだが。
 もいっちょ。この直後のシーンなのだが、環境保護だの自然との共生だのといった現代における重要な課題について、おもしろい意見があった。古代の壁画がある洞窟で休憩するシーンでジンネマンがバナージに語った台詞、引用。

「地球を守れって言葉の意味は、人間が生きてゆくための生態系を守れってことだ。このまま熱汚染と砂漠化が進んで、地球が化学物質で汚染されきったとしてもだ。人間が自然から生まれた生き物なら、人間が出すゴミや毒も自然の生成物のひとつってことになる。ただ人間が生きてけなくなるだけで、それはそれで自然がバランスを取った結果なんだろう。上に生き物が乗っかっていようがいまいが、たぶん地球には関係のない話だ」
 砂漠に殺されかけた身には、実感できる話だった。自然との共生--その発想こそが文明に甘やかされた人間のファンタジーということか。(中略)
「過酷な自然と闘ってきた昔の人間は、そのことを本能的に知っていた。自然は人間に慈悲なんかかけない。だから生きるために文明を作り、社会というシステムで身を守った。でも長い年月が経つうちに、システムが複雑になりすぎて、いつの間にかシステムを維持するために生きなきゃならなくなった。そのために戦争をして、乱開発をくり返して、経済を拡大させて……。ついには、生きることが難しくなる本末転倒が起こった」

 エコは大切。現代人の義務である。しかし、それを過剰に主張する人たちに理由不明の違和感や滑稽さを感じることがたびたびあり、その都度なぜなのかチラリと考えてみるのだが、突っ込んで考えたりはしないので回答など得られることはなかった。が……理不尽さの問題同様、ちょっとスッキリした気分。

SHCM-Pro 1/144 RX-0 ユニコーンガンダム (機動戦士ガンダムUC)

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