死者との対話は、突然はじまり、突然、しかも空いてから一方的に断ち切られてしまう。
生者が死者に思いを馳せるとき、その思いは記憶と入り混じりながら、いつまでも、いつまでも、生者のなかに生きつづける。それでは、死者の記憶はどうなのだろう。死ねば何もない。だが、その者が生きた痕跡は残る。例えば、間取り図で書き表された家の部分部分に。そして、生者が死者の記憶を残すように、家は死者の記憶も生者の記憶もおなじように痕跡として残すのだから、死者の中にも記憶は残るはずで、その死者は自分よりさらに前に死んだ大切な人の記憶を、大切に残しつづけているはずだから……家族という記憶の連鎖体(こんな言葉はないだろうが……今、つくった)、それが本作のテーマ、だったのかもしれない。
意図してそうしたのだろうが、不安定であぶなっかしい、微妙にトーンの変化する文体も独特で一読に値する。川崎さんの作品のなかでは、一番好きかもしれない。おすすめ。
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