連作短篇集。かなり前に古書店で見かけて購入。後藤明生の作品は手に入りにくいので、見かけたら絶対に買うようにしている。非常に気に入っている作家の一人。名作『挟み撃ち』はとても気に入っている。
「道」。浅間の別荘で呑気に暮らす作家の男は、通り道が切り倒されたらしい欅の大木でふさがれてしまっているのを見つける。その木はある老人の一族の墓の敷地内に生えていたもので、横たわる様子は木というよりも「死体」という言葉のほうが似合う。作家の男はその老人に撤去しないのかと尋ねるが、答えはよくわからない。やがて老人は呆け、そして……。
まじめで淡々とした描写がつづくと思えば、突然「老人は歯茎を食べるような口の動かし方をした」なんて思わず笑ってしまう表現が登場し、意外にもこれが作品の後半のキーになっていたりするからスゴい。そんな展開のなかで、老人の存在、墓、そしてそこに生えていた欅の大木=死体がそれとなく対比的に扱われている。笑いに満ちた作品だが、笑いながらも、死について考えざるを得なくなる。
- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1985/08
- メディア: 文庫
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- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1977/05
- メディア: ?
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