傑作『河岸忘日抄』の延長にある世界観だが、主人公はあのフランス語に長けた青年ではなく、ハゲでデブで人なつっこい、何でも屋的な働き方をする探偵。舞台はとある探偵事務所、隅田川沿いの古い雑居ビルの一室だ。ここに依頼人が現れるとやがて天気が大荒れになり、依頼人、探偵、助手の三人が会話する。ただそれだけの内容なのだが、異常なまでの情報量、何度も飛躍してはもとに戻る多層的な会話の流れ、そして登場人物たちの優しさや悲しみが複雑に入り乱れ、いつの間にか自分も探偵事務所で彼らの会話を聞き入っているような気分になる。『いつか王子駅で』『雪沼とその周辺』あたりが好きな方には絶対におすすめ。単行本化されたら、ぜひ読んでほしい。長いけどね。
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