谷崎の『鍵』における三角関係の話に戻るかと思いきや、はじめて描かれたシンポジウムの聴衆たちのヤジで、またもや迷走をはじめてしまう…。なんでチャーリー浜の「あーりませんか」が出てくるねん。
内容を意図的に混乱させたり暴走させたり、という手法は、普通の作家だったらほとんど使わないのだろうけれど、後藤明生の場合は、むしろそこに書く歓びを覚えているようであり、読み手としても、そのメチャクチャっぷりが楽しかったりする。傑作『挟み撃ち』は、まさにそんな小説だった。おかしな部分で個人のアイデンティティが暴発し、おもいがけぬ物語展開や回想を引きだしていく。フリージャズみたいな感じかな。
後藤明生の作品はこちら。Kindleでどんどん旧作が復刻されている。