お察しの通り、オウム真理教と地下鉄サリン事件を題に取った小説。御大、たしか八十歳を超えていたと思うが、衰えぬ想像力とオリジナリティには敬意を表したい。これまで読んだことのある小説とは、まったく異なる。しかし、扱うテーマは普遍的であり、ひょっとすると二十一世紀の最重要課題かもしれない。それは大西自身も自覚しているようだ。巻頭の「献題」部分から、長いけど引用(久しぶりだなあ。引用したいと思う文章になかなか出会えなかったからだけれど)。
本来、なにものも、いかなる官威権力も、「いつも死を控えて生きる奇怪な毎日」を各人に強要強制することはできない。それは、定言的命法である。
さて、「宣戦布告」のある政治的殺人は、「戦争」と呼ばれ、「宣戦布告」のない政治的殺人は、「人殺し(テロリズム:原本ルビ)」と呼ばれる。それが、既往(現在まで)の通俗概念であって、前者は「いつも死を控えて生きる奇怪な毎日」を国民各個に強制強要する。「国家」という「官威権力」のこういう理不尽な(上記の定言的命法に正面から背反した)やり口は、抜本的に是正せられるべきである。 「宣戦布告」の有無にかかわらず、どちらも、それが政治的殺人であることにおいて、一様に「人殺し(テロリズム:原本ルビ)」であり、したがって、「人殺し(テロリズム:原本ルビ)反対」は、すなわち「戦争反対」でなければない。
「戦争」ないし「国民国家」に関する通俗概念の徹底的な打破克服の道を確立すること、ここに、二十一世紀初頭の中心課題(当為)が、実存する。
この文章が書かれたのは2001年。9.11が起きた年である。
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