わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

金井美恵子『噂の娘』

 自分たちは親に捨てられてしまったのではないか、みなしごに、センサイコジになってしまうのではないかと不安がる弟に、正論を言ってなだめようとする姉。説明を聞いた後の弟の描写が妙に活き活きとしていて気に入ってしまった。自分の感じている淋しさを否定されたときの不条理な感情、リクツにキモチが無理矢理惜しつぶされてしまう感覚がよく表れていると思った。引用。

(前略)もし仮に、仮にだけれど、とうさんが死んだとしても--そんなことは、ないけれど--あたしたちには、かあさんがいるからみなしごになるわけじゃないし、(中略)かあさんもとうさんも、あたしたちを他所にやったりはしないのだから、この家の子になるわけがない、と言うと、弟は、ならいんだけど、と溜め息を吐き、すごーく、すごーく、つまんない、すごーくつまんなくて、何していいんだか、わからない、と言いながら、うつぶせになっていた身体をごろりと回転させ、ごろごろと身体を何回転もさせて部屋の反対側の壁のところまで転がって行く。