わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

金井美恵子『噂の娘』

 描写のリフレイン。『柔らかい土を踏んで、』は、この手法だけで成立しているといってもおかしくないくらい、描写の繰り返しが多用された実験作だった。現実と記憶の混濁、記憶をコピーしはじめる現実、そんな感覚が不思議な作品だった。しかし本作では、あくまで現実に足をつけた上で使用されているようだ。主人公の少女の記憶が繰り返されるのは、そこに強烈な思い出があるから。なにげない記憶でも、実は本人すら気付いていない強力な感情の噴出があったのではないか。しかし、その噴出を噴出のまま書いてしまったらたちまち作品は感情という箍にはめられ、成立しなくなってしまう。そういうことかな。